堕ちる時は……堕ちた方がいいのよ、いっそどん底まで……
あの子にはもっと働いてもらわないといけないんだから……

……だから、私のために……
 
 
 
 
 
 
 
 
「まだ見つからぬのか!」

憤慨した様子の男性の叫びが響き渡る。

どよめきの中、一人の女性がすっと名乗りを上げた。
「私が!必ずしやご期待に沿わせていただきます!!」

どよめきは静寂へと変わり
みなはただ、一人の男の決断を待っていた。

「いいだろう、頼んだぞレモラ」
「仰せのままに……」

すっと軽やかに頭を下げた女性……
その瞬間髪の影となり見えずに居た首筋の刺青が姿を現した。
雫のような形の刺青が……
 
 
 
 
 
 
 
 
「疲れた?」
「え……」

ひょっこりと覗き込んだ暖かな瞳。
我を取り戻した少女は辺りを見回す。
炭鉱の国、リアラトスへと向かいその途中の風景のようだ。
なにか嫌な予感がする。
とはいってもこの間の比ではないが。
何かとても、陰湿で恐ろしいもの。それが背を伝うのをありありと感じられた。

「ううん、大丈夫。心配しないで。」

もう、一体私は何を考えているの?
私は二人の足手まといにならないように頑張らなくちゃいけないのに。

自分に自分で渇を入れ少女たちは目指した、新たな冒険の一ページへと。
 
 
 
 
 

気候は乾燥地帯。山々に囲まれた……といってもリオール村のような緑生い茂る鬱葱とした所ではなく
赤茶けた崖面がむき出しになり乾いた風が煙をまわせていた。
炭鉱による資源により栄えた国、リアラトス。
一時はそれは栄華を極め、多くの人々が働き出に来ていたらしいが
今では炭鉱物資の希少価値が下がりさほど栄えてはいないそうだ。
人と比べて随分余る大きな炭鉱労働者用の宿場がぽつりぽつりと
郊外に点在し、国自体に住まう人口は世辞にも多いとはいえない。
ただ、それにしては不可解な点が多く見られるのだが。
 
「あんだ、この辛気臭ぇーところは……」

ただでさえ人相の悪いグレイはさらにその顔にしわを寄せて
いかにもいい加減にしてくれと言いたげにため息を漏らした。
だがこの状態ではグレイに限らずティアですらため息の一つでも打ちたくなってしまう。
国に入って誰一人としてすれ違いはしないのだ。

人がいないという訳ではない。
まだ日も高いというのに厚いカーテンがかけられランプを灯して生活しているようだ。
こんなんで店を営むような人は儲かるのか?と疑問に思うくらいに人っ子一人いない。
キールらの情報によれば、この国は数年前国王が変わってから様子がおかしく
廃れたように感じられるのだが国民誰一人として不評などをもらさぬようなのだ。
 
「そうね……あそこに行けば誰か一人くらいはいるんじゃないかしら?」
指差したのは一軒の酒場。
酒場を営んでいけるということは来客があるということ。
確かに誰か彼か、人はいるという証拠なのだ。
 
木製の扉が軋みながら大きく口を開けた。
一歩足を踏み入れた途端あまりの気持ち悪さに立ちくらみを覚えるような悪臭が漂った。
酷いアルコールで充満した室内はむわっとする嫌な熱気に包まれていた。

「何だよコレ……。」
その場にいるだけでクラクラしそうな湿度の高い室内。
顔を歪めて辺りを見回す三人。
そこに居た客は普通の国民には見えず、それなりの身なりをしていて
薄手の防具には煌びやかな装飾まで施されていた。
兵士だろうか?にしては豪華すぎる。
三人もこの手のお飾り武具は手がけた事はあった。
しかし普通は貴族がお遊びの狩程度で身に着けるような代物で
どうしても機能性に支障をきたしてしまう。
柄の悪いただの浮浪人の寄せ集めのようにさえ見える奴等が
そんな高価なものを身に着けられるとは思えない。
客は兵士たちだけのようで、その兵士たちもまだ昼だというのに
大勢が酔いつぶれて浴びるように酒を飲んでいた。

店員はというと青ざめた表情で忙しなく酒を運び、
話しを聞ける状態には見えなかった。
こんな所にいたらいつ絡まれるかわかったもんじゃない。
そう悟った三人はあえなく酒屋での聞き込みを諦めた。
 

数時間し、日も暮れる頃三人は宿へと帰った。
 
疲労ゆえか、誰一人として言葉を交わすことは無かった。
「この国、嫌いだ。」
唐突に沈黙を破ったのはアスカだった。
会話を投げかけるわけでなく、ただの独り言。己の気持ちを漏らしただけ。
どうして?とは誰も聞かない。
むしろ言えないのだ、その率直な気持ちは満場一致なのだから。
『支持率100%の国王。外に出ないどころか笑わない国民。
 白昼堂々酒に溺れる兵士達。栄華を極めた国とは到底思えない……か。』
!?
その場にいる三人以外の声。
しかし、謎はすぐに解決された。

『やっほぅ♪お困りかな?』

「カーレントさん!?」

素っ頓狂な声を上げたティア。軽薄そうな声に
あ、と三人はそれぞれの通信機を覗き込んだ。
無駄に綺麗な青年がにこにこと微笑んでそこに居た。

『呼ばれて飛び出てなんとやら、可愛い女の子の頼みとあらば
 その身を投げ出してでも助けに行く、それが紳士って奴だよ♪』
『どーやって飛び出す気だ?それにナンパ男のどこが紳士だっ!』

すぱんっと子気味良い音を立ててスリッパがカーレントの頭に直撃した。
相変わらず仲の良いコンビだ。とつくづく思うほど息の合った突っ込みだ。
何故か性格は全く違うのに、アスカとグレイを思い出してしまうから不思議なものだ
とティアは思い小さくくすりと微笑んだ。
一通り突っ込み終えて納得したのかキールは眼鏡をかけ直して向き直った。
………後ろに頭を抑えて不服そうにしている美青年を無視して。

『俺の言った意味が嫌というほどわかっただろ?』

言った意味、というのはキールが教えてくれたリアラトスについての情報。
といっても噂話のようなものだ。

リアラトスには心を喰らう鬼が住み着いている。
そんな噂が流れ始めたのは3年前……
先代の王が病に臥し、長兄である王位第一後継者が王政の実権を握った時だった。
それはそれは、治安が良いと噂される王が倒れ政局は混迷したが
国民は次代の王を信じていた。
しかし不思議と、確実に国は衰退の一途を辿っていた。
何故か唐突に行われた他国との交流の制限。
炭鉱発掘の大幅人員解雇。
それにより国民からの信頼が途絶えたわけではない。
むしろ現在では支持率100%。
意図の掴めぬ政策が続いていたにもかかわらず、だ。
支持率がある割には覇気のない国民。
不気味、としかいいようが無い現象。
それに旅人たちは噂を流し始めた。
ここにはきっと心を喰らう鬼が住み着いているのだ。と。
グレイはそれを御伽噺と笑い飛ばした。
もちろんティアやアスカだってその気持ちは一緒だ。
ばかげているとしか言いようが無い。
が、この国に訪れてようやっとその意味が分かった気がした。

「キールさんはどういう風に解釈しているんですか?」
『まだ断定は出来ない。だけど、現国王が何かしていると考えるのが
 一番妥当なラインだろうな。』
「俺らが聞きてぇのはどうして誰も不評を漏らさないのか、だ。」
『バーカ、それを調べるのがお前たちの仕事だ。』
「あのさ、あのさ!」

滅多にこんな頭を使う会議に参加しないアスカが
自信ありげに大きく手を上げた。

「うーんと、上手くいえないんだけどさ。
 魔硝石が心になんかやってる〜ってーのは!?」
「うん……?」

説明の苦手なアスカにもう一度言うようティアが促し
その話によると”魔硝石が心に巣食い、なんらかの悪影響を及ぼした”とのことだ。

『バジルのケースを考えれば、魔硝石の効力で暴徒化した訳だし
 考えられない可能性ではないだろう……だが』
「……国王は何らかの経緯で魔硝石を入手した、って事ですか……?」
『俺ですら手に入れたのが不思議な状態なわけだし。
 探そうとしたってそう簡単に見つけられる代物じゃない。』
『僕等ですら未だ手に入れられていないわけだし。
 通常の炭鉱じゃ、あるとは思えないんだよねぇ〜。』
 
「………例の謎の男か」
キールに魔硝石を研究させるきっかけを作った男。
魔硝石を持ち歩く男
彼が魔硝石の効力について知っていたとしたら?
彼が全ての黒幕だとしたら?
しかし動機は闇の中。
不可解な点が多すぎて何も確定できない。
 
『ま、もうちょい調べてみるに越した事は無いよ』
『絶対この国には何かある。くれぐれも気をつけてな。』

そこでカーレントとキールからの通信は途絶えた。
結局何か打開策が練られたわけではないがそれでも幾分かはましになった。
ここにいる三人だけがスベテじゃない。バックアップしてくれる人はいる。
それが確認できただけでも少しは考え方が楽になった。
明日からまた頑張れば良い。その結論に達して三人は床に着いた。

数分もせずにそこには規則的な寝息が響いた。
だが一人灰色の髪を持つ少年が音もなく瞳を開いた。
ちっぽけな小さな古びた窓枠。
そこからは沢山の星々がまばゆくきらめいていた。
無限に広がる夜空を見上げていると自分の小ささが身に染みる。
もう誰かの手を借りたくないから出てきた。
母親が憎かったわけじゃない。そんなのは後からとってつけた言い訳だ。
何も出来ない無力な自分が何よりも憎くてどうしようもなくて。
だから飛び出てきた。変わるためなんて格好の良いもんじゃない。
ただ逃げてきたんだ。
なのに結局兄貴に協力してもらっていて
親父(ディード)を助ける事すらできなくて
飛び出てからの数年間俺は一体何をしていたんだ?
情けない
惨めだ
俺はそんなに弱い奴だったのか

ちらりと横を見るとよほど疲れていたのか熟睡する二人が居た。
そうだ。苦しいのはなにも俺だけじゃない。
ティアはリオール村以前の記憶が無い。
加えてこの間のことを考えればその恐怖は計り知れない。
知らぬ己。自分が何者なのかわからない。
考えただけでもぞっとするのだからティア本人はそれ以上に莫大な不安を抱えているはずだ。
そしてアスカは幼い頃両親を亡くし
その後父親代わりであったディードも殺された。
家族の暖かさに強い憧れを持っているのにそれを不満とするわけもなく
ただ一日一日を必死に生きていやがる。
憎しみや哀しみよりもただとにかく今を生きている。
よっぽど人間としての器がでかくなきゃそうは考えられない。
リオール村だから許された。
そんな哀しみを抱えた者がよりそって肩をひしめきあって生きる村だから。
みんな苦しみを持っていた。だから苦しみを理解できた。
世の中にはそれを知らずに生きている人間居るのは事実。
だからたまに忘れそうになる。どうして自分ばかりがこんなにも不幸なのだろうと感じてしまう。
幸せを妬んでしまいそうになる。
だが少なくてもここに居る二人はそうは感じていない。
俺以上の苦しみの中で生きているのにその中にある僅かな幸せを大事にいきていやがる。
この二人が居る限り俺はうつむいてはならないんだ。
もう昔の過ちを繰り返すわけにはいかない。
 
 

少年は星に誓う
月は嘲笑い冷たさを増す
されどその笑み途絶えぬなら
刃となりて守りぬく意思そこにあり
 
 
 
 
***後書き***

うわー超ひさびさの更新だぁ。ていうか遅筆なんだよ本当。
では後書きという名の懺悔大会いってみよ〜!
まず敵のあらわれ。
ゼノギ○スというゲームに影響されているというのは内緒。
敵さんの伏線の出し方あのゲームうまいんだもん。。。
またしてもアスカ君の印象の薄い一話。
だってグレイ君最近かわいいんだもん。キール兄さん好きなんだもん!
ていうかですねぇ。ペリドットは人間の弱さを中心に書きたいんですよ。
グレイ君は本当なんかキールお兄ちゃん以上に”お兄ちゃん”ってキャラです。
だけどそれは自分の弱さを隠していて。自分がすごい弱いって自覚していて。
自分が惨めで自分が憎くてしかたなくて。だから強くあろうとしているわけなんです。
せめてこの二人の前だけでも〜……的な。
弱さを自覚できても、普通ならきっと弱さを嘆いておしまい。
それか自覚しても心のどこかで弱くなんかないと逃げてしまう。
だけどグレイ君はそのどちらでもない。
いままでは逃げていた。弱い自分から。
でも兄と再会して兄の手を借りている情けない自分を見て。
自分以上の苦しみを抱えていたティアと話して。
それで弱さと対峙して。
弱い自分でも信じようと考え方がかわったわけです。
うわー。超絶格好良いなぁグレイ君。。
でもでも見せ場はこれだけじゃないぞ!リアラトス編が終われば……ぐふふふふ。(何)
では次の懺悔室であえることを楽しみに〜。

2005.5.28.ミスト
  

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