アンナの説明を全て聞き終わってから一時間がたった。
それぞれ自由行動にして中を好きに見てまわっていいとアンナに言われたものの三人は一緒に行動した。
一通り見て回った後ロビーのような接客フロアで三人は備え付けの椅子に座り込んでいた。
なかなか整った設備。
外見こそ鉄材の張りぼてのように不恰好ではあるが内装は以外にも洒落てい、小奇麗で
それでいて大勢のクルーが共同生活するだけはありいたるところに生活臭を感じさせた。
温かみがあってそれでいてまとまっている。
誰一人として若くそして女性であるキャップに反感をもってはいない。
 
「信用、してみる?」
「俺は反対だ」
ふんっと顔を背けたままグレイがティアの言葉に答える。
馬が合わないというのかなんというかグレイとアンナは水と油。
少々会話をする程度のことで一触即発。
  ――アンナは怒っているというよりもグレイをからからかっているという方が近い気がするが。
アンナを信頼しきっているアスカが反発する。

「なんでだよ。アンナもこのクルーの奴らもみんな良い奴じゃんか」
「今良い奴だからって本当に良い奴かどうかはわかんねぇだろうが」
「それじゃあこのままアンナに協力しないつもりかよ、あのプランにも」
「あの作戦には協力する。だがそれ以上の深いつながりは御免だ」

グレイの考えは余りにも素っ気なかった。
その場しのぎだけの出会い。冷たすぎる。と感じてしまうがしかし深く関係を持てばリスクがある。
グレイの言っている事も一理ありティアは思考を巡らせた。

「俺らの仕事もあいつらには関係ねぇことだ。状況によっては巻き込む可能性だってる」
それがグレイの本心だと直感的にティアは思った。
グレイは恐れているのだ。巻き込んでしまっていらない犠牲が増える事を。
三人が追っている事件は謎の組織が絡んでいる事は明白。
ディードを、リオール村の者全員を殺害した組織。危険すぎる。

「それは……そうかもしれないけど。でもっ」
アスカは懸命になって言葉を捜した。
見つからないとわかっていてもそれは間違っていると確実に心が訴えるのだ。

「これからもずっとそうするつもりかよ?ずっと誰も信じないで旅を続ける気かよ!」

何か違う。といいたいのだがそれが何と具体的にアスカはいえなかった。
少なくとも旅人の村、リオール村は違った。
もっと旅人たちは楽しそうで、辛そうで、孤独そうだけど、どこか満ち足りていて、出会いを大切にしていた。
それがアスカたちの知っている旅人の姿。
一人で旅する人。パーティーを組んで複数で旅する人。
幾つもの恐怖や苦難を乗り越えてきた人々のその背中は大きく感じた。
そして旅人たちはみな出会いを大切にしていた。まさに一期一会。
旅商人の常連やら一度きりの名もない剣士やら訳ありで旅する女性やら。
沢山の人間と触れてきた。
そしてみなディードを親しみを込めて親父と呼ぶ。
『一度しか会わなくても出会った旅人は俺らの家族なんだよ』
ディードは言った。

だがグレイの言葉はそれを酷く捻じ曲げている。

「俺は嫌だ!背負っているものがなんだとかそんなの関係ない!
 俺は親父みてぇな人になりたいんだ!暖かく誰だってなりふり構わず迎え入れてくれる人に!」

三人を何の抵抗もなく受け入れてくれた親父。
この言葉に流石のグレイも反論はできなかった。
「っ………好きにしろ」

グレイが折れて口論は終わる。
ほぅっと安堵のため息をティアはついた。

グレイは一番理にかなっていることを常に考えている。安全でいて最良。
でもアスカの意見はいつも感情に素直で率直な意見。危なっかしくて根拠がない。
だからいつもいつもこうやって二人は口喧嘩が耐えない。
アスカの考えは真っ直ぐすぎて痛々しい。
純真すぎるそれは世間一般ではご都合主義や綺麗事なのだろう。
だけどそれをアスカは貫く事をやめない。
だからこそこんな主要的な口論で折れるのはいつもグレイなのだろう。
普通誰もが避けてしまうようなルートをあえてアスカは選び突き進む。
それはきっと意志の強さ。純粋な清い意思。
それを自覚なしに言ってしまうアスカは凄いな……とティアは思った。
 
「あっ!いたいた!」
陽気で楽観的な声。振り向くと走っていたのだろうか、少々息を上げたアンナがいた。
たったついさっきまで三人が己の事を話していたなんて微塵も勘繰ったりなどしていないだろう。

「私たちを探してたの?何か用??」
「これがいつのまにか船内に入っていたのよ!」

これ?
解せぬ代名詞に三人は顔を見合わせた。

きゅぅぅ〜〜っ
!!

「バジル!!?」

アスカの声とほぼ同時にアンナの後ろからバジルは素早く飛び出した。
ぎゅうっとアスカの胸元に飛び込んできゅぅっと嬉しそうにひと鳴きする。

「どこ行ってたんだよ、心配したんだぞ?」

人語が通じるのか定かではないがどこかバジルはしゅんとしている。
聞いても結局答えなど返ってくることはないのだから
それ以上お説教は抜きにしてアスカはとにかく無邪気にバジルの帰還を喜んだ。
 
戯れるアスカとバジルを眺めながらアンナが一言

「………小動物が二匹」
ぷっと思わずティアはふいた。的確すぎる表現。
アンナは本当に短い期間溶け込んでなじんで空気のようだと思った。
時間なんて関係なく親しみを込められる人柄だ……まるでディードのように。
だからかもしれない。アスカがこだわったのは。
アンナにディードの姿を僅かばかりか重ねていたのかもしれない。

「そういやバジルどうやってここが分かったんだ?」
「アタシもわかんないわ。いつのまにか船内に変な動物がいてビックリしたんだから!
 この間リスウサギとか言ってたからもしかしてと思ってここにつれてきたのよ。」
「へぇ〜バジルすっげぇな!」
「それは良くてもアタシはすっごい困ったんだからね!」

アンナはぷくっと頬を膨らませてバジルに軽いにらみを利かせた。
バジルは我関せずとでも言わんばかりにアスカに抱きついたまま離れない。

「困ったって一体どうしたの?」
「これよこれ!」

むぅっと不機嫌そうにアンナは両手をつきだした。
細かい傷がたくさんついていて痛々しい。引っかき傷のようにも見えた。

「ひょっとして……これ全部バジルが?」
「そ。たっくこのアタシが慈悲深く連れて行ってやろうと思って抱き上げた途端
 暴れるわ暴れるわ。まあ手を離したら案外素っ気無くアタシの後ろ大人しくついてきたんだけど。」

きゅぅ〜?

バジルはくりくりと大きな瞳を輝かせて小首をかしげた。
罪の意識など微塵も感じていないのだろう。
アスカがうーんと唸って呟いた。

「ひょっとしてバジルは女が嫌いなのかな?」
「どういうこと?」
「私も嫌われてるのよ」

さびしそうに肩をすくめてティアは袖をまくった。
何度かバジルに触れようと勤めたがお返しは引っかき。
相当嫌われていてショックを受けていたのだが女性そのものが嫌いというのなら少しだけ気が楽になった。

「ふぅん。じゃあバジルはきっとメスなのね」

にっと笑う。
そのアンナにやはりティアは暖かさを感じていた。
普通ならば傷を負っても一応お客様の連れ。社交辞令として言わないでおくもの。
それをここまで大胆に言ってしまうのはある意味凄い。

「それで。意見はまとまった?アタシのプランのるか、のらないか」

アンナはぱっと見、破天荒に見えるがキャップとして考える事は考えている。
この自由時間だってただ船内をみてまわっていいというだけではなく
話したプランにのるかのらないかの最終決定をする時間を与えたのだ。

「やるよ。俺たち」
「そうこなくっちゃ!」

パチンっとアンナが叩いた手の音が場に響いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「レモラ」
「あら。ヘラ様ではありませんか。わざわざこちらに貴方が赴くなんて
 一体何要でございましょう?」

レモラは穏やかな口調でしかし嫌味ったらしく微笑んだ。
しかしもう片方の女性は顔を伏せたまま無表情であることを崩さない。

「本当に貴方であのコ達を始末できるのかしら」
「当然ですわ。私はあの方直々に頼まれたのですから」

くすくすと見せる妖艶な笑み。
癖のように、髪を首筋に撫で付けながらレモラは言う。

「失敗は、上手くないわよ」
「当然です。私は失敗などしません。
 あのような小賢しい雑魚どもなど八つ裂きにして差し上げますわ」
「………そうね。でも、あそこに居る娘は貴方にとって天敵なのではないのかしら?」
「っ………知っていたのですか」

少しでも煽ろうとしていたレモラが逆にヘラの神経を逆なでするような発言に動揺を見せた。
顔に一瞬表れた怒りと驚きをなんとか冷静さで保ちつつ
今度は少々睨みつけるようにしてレモラは女性を見上げた。

「でも哀れなのは貴方よ。もう貴方は誰からも愛されていない」
「そうね」
「こんな辺境まで来たって貴方にとっての幸せなんてもう二度と訪れる事はないんだから」
「そう、かもしれないわね」

曖昧でいい加減な返事にレモラの苛々は増してゆく。
しかしヘラは相変わらず虚を見続けるだけ。

「醜い女」

「あら、人間の嫉妬のほうがよっぽど醜いわ」

ふっとゆるく口元にかすかな笑みを浮かべたかと思うと
次の瞬間ヘラはふっと霞のごとく姿をくらませた。

「楽しみにしていなさいヘラ………あの子を殺して私が奪ってあげる。貴方の全部をね」
くつくつと歪んだ笑みを浮かべ呟いた言葉は
ふっと広い空のなかに誰の耳に届く事もなく消え入ってしまった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

空には闇が少しずつ侵食を始めていた。
乾燥地帯であるこの地は朝と夜の気温差が激しい。
照りつけるような日差しが失せた今は風は冷たく吹き荒れていて
頬にぴしぴしと巻き上げた砂を叩きつけていった。
 
「さぁて。準備はOK?」
「もちろん」
「ええ、大丈夫」
「………」
 
アンナの問いにグレイは俯き返事を返さない。
それを見てアンナはむっと頬を膨らませた。

「ちょっとグレイ〜?士気を乱す行動は良しとは思わないわよ?」
「……ちっ」
「うぁ、今の聞いたティア?グレイったら舌打ちしたわよ!」
「あはは…」

ただただティアは乾いた笑みをこぼした。
決戦前だというのにあまりにも暢気な会話。
まるでこれから遊びに出かけるような雰囲気だ。

「じゃあ、プランは覚えてるわね?
 悪いけど正直言ってこの計画三人にとっては結構辛いわ」

真剣な表情で苦々しく言うアンナに三人は押し黙った。

「まぁだいじょぶでしょ♪」

かと思いきやアンナはあっけらかんと笑う。
くるくると感情のままに変わる百面相。
一緒にいるだけで安心できる。ほっとする。
やはり、アンナはどこかディードに似ていた。
アンナはくるりと後ろを向いてハイマーの名を叫んだ。
のろのろとハッチから出てきた大男は少々ぐったりした表情をしているが
アンナは表情一つ変えずに声を張り上げて問う。

「どぉ〜動けそう??」
「……お嬢が早く夜までに間に合わせろって
 クルー全員急かしてこちとら全速力で仕事したんじゃねぇか」
「あっれ〜?そだっけ?あっはっは、まぁ過去は振り返らないもんよ♪」
「……か、過去かい…俺らの苦労はぁ」
「ほらほら馬鹿でかい図体した男がいじけないの!
 あたしだってちゃんと感謝してるわよぉ〜ハイマーちゃんにもみんなにもぉ!」

にしっと仁王立ちをしたままアンナは快活に微笑む。
その声にひょこっとハイマーの影からすすまみれの老人が出てきた。
ひょろりとした枯れ木のような体躯の割には浅黒い腕はしっかりとした筋肉が張り巡らされている。

「そりゃ光栄。さぁて、こっちの準備はとっくに済んどるわい。
 職人を甘くみるでないわ。わしの愛人の機嫌も最高だわい」
「さっすが爺様!あのじゃじゃ馬を黙らせられるのは爺様だけね!」
「ふぉふぉふぉ…まだまだ年老いても腕は落ちんわい」

老人は高らかに笑う。
年期の入ったこんがりと焼けた肌についた皺一本一本にその仕事への厚みが感じられた。
 
「…さぁて。じゃ、此処からは別行動よ
 絶対、無理はすんじゃないからね!」
「おう!アンナもな!」

にっと笑いあってアンナは颯爽と船へと乗り込んでいった。
そこに残ったのはアスカ、グレイ、ティア、ギャロの四人とバジル。
本当はバジルは船に残しておきたかったのだがアスカにべったりとついたまま
バジルは動く気配がないのでバジルもアスカ達と同行することになってしまった。
 

別れたのは二つのグループ。アスカ達とアンナ達。
こっちは王城へ正面から奇襲を仕掛ける奇襲組みでアンナ達はハルピュイアの機体で
防砂壁を突破、進入し、一気に王城を攻め込むというものだった。
この国になにもないわけがないのは明白。
そしてなんらかの怪しい集いを今日行っていると聞きつけたのだった。
何が行われているのかはわからないが
何かが確実に王城内部で行われているのだ。
見過ごすわけには行かない。
 
 
再び四人はあの気の遠くなるような階段を上り、門付近へと来ていた。
そこにいたのは門番たちだけではなかった。
やはり、秘密裏になにかの集いが今日行われているのだ。
四人はじっと息を潜めてその様子を伺った。

そこにいたのは十数名の人々。
目深のローブなどを各々身にまとい、両の手にはあふれんばかりに荷物を持っていた。
門を前に一列に並び、門番となにか手短な会話をして、王城の中へ入っていっている。
 
「なぁ、一体なにやってんだあいつら?」
「さぁな…だが、あの門兵がチェックをかけてる感じじゃねーか?」

確かにグレイの言葉通り、門兵は会話後に手持ちの紙と照らし合わせてからその人物を通していた。

「ねぇっ!あの最後尾の人…この間のバーテンさんじゃない?」

一番最初に町に来て入った酒場で働いていた青年が
やはり他の人と同じようにたくさんの荷物を抱えて並んでいた。

「っつーことは、この行列は全部国民ってわけ?」
「たぶん…でも一体何をするために王城に……」
「大方そこに支持率100%の謎ってもんがあるんだろ…」
「お喋りはそのくらいにして。さあ行くぜ」

ギャロがもくもくと進んでいく。
服装も怪しまれないように並んでいる列の人々と似通った服にしてあった。
勿論荷物もあるが、それは武具であったり、丸めた軽布であったりと
体積だけを稼いだようなものである。幸い荷物検査までは行われていないようだ。

さり気なく出てきてバーテンの後ろに並んだ。

「すいませんっ…」
「え?…ああ、君たちはこの間の……。
 そうか。君たちのご親戚もなのか……」

蒼白で痩せこけた不健康そうな頬の筋肉をなんとか動かして
どこかぎこちなくバーテンの青年は笑みを作る。
”ご親戚も”ということは彼の親戚もなにかあったということか。

「ええ…それで、私たちその…はじめてで…」
「集会にははじめてなのか。どうりで見たこと無いわけだ」
「その…集会は、ええっと……何か必要なんですか?」
「何かって?」

聞き返されてティアは言葉に詰まった。
いっそのこと正直に言ってしまおうか、と思い助け舟を求めて
視線を泳がせるとギャロが小さく首を横に振る。
青年が快く協力してくれるかどうかわからない以上
やはりここは適当に話をあわせるべきだろう。

「ああ、もしかして合言葉を知らないのかい?」
「え?……あーっと、そうです!その、合言葉教えていただけませんか?」
「うーん、本当はダメなんだけどなぁ…まぁ、世は情けってね。
 合言葉は『王に我、忠誠誓う。乞うは永久の繁栄』だよ」

頑張って、と言い残しバーテンは列に戻った。
青年がある程度離れ声が届かなくなったところでちっと短く
ギャロが舌打ちをする。
「忠誠だぁ?ケッ、あいつら好き勝手抜かしやがって…」
「えっと、よくわかんないけど、あの人もやっぱ心から忠義を尽くす
 って感じは全然しねぇよなぁ…」
「ったりめぇだろうがバーカ。言わされてんだろ」
「君たちの親戚も……ってどういう意味なのかしら…」

「なぁに、んなこたぁ行けば分かるさ」

シニカルな笑みを浮かべ、葉巻をふかせつつ
ギャロを先頭に四人と一匹は王城へ入っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「城内で見るのは、わずかばかりの希望か
 救いようのない絶望か……どちらにせよ、運命は決まっているのよ」
 
飄々とした女の声が、木霊した。
 

 
***後書き***
無理やり切った感溢れる小説へようこそ。
リアラトス編思った以上に長びきまくりです……うぅ。
下手したら、このままあと三話くらい費やす可能性が…うわぁっ
早く次の場所移動したいので、ぱっぱと行きたいですが。
私にそんな能力はないので、恐らくトロい亀進行です…。
やっとこさアスカがすこしいいトコ見せられました。
でもまだ全然ダメですが。主人公の影がとっても薄いってどうなのよ。
なまじグレイとティアが好きなため知らない間に出番が消えていきます。
もっとアスカの活躍の場を作らなくてはっ!

一応補足として言いますが、バジルはメスです。
女の子に対してふしゃーってなります。
男の子に対してきゅう♪って愛想振りまきます。
最初はただのマスコットキャラだったのに………
 2005.11.12.ミスト
 
 
 

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析