ここはリオール村。
木々に囲まれ自然豊かなその村は意外と人の行き来が多く、一見すると小さな都にも見える。
 
 
だが、実際のところ人口は僅か30人程度。
この村にいる殆どの物は旅人で、住んでいるのは宿屋が三軒、鍛冶屋が一軒、病院とはいえない小さな診療所が一軒・・あとは食品を扱う店などが数軒・・・・・それらを営む者達だけだ。
そうこの村は言わば旅人のための村なのだ。
幾つかの大都市を挟み高い山々に囲まれた辺境にあるこの村は山谷を超えて旅人が休憩、寝泊りをしているうちに其れを利用しようとした商人達が集まり誰も住んでは居なかった所が次第に村となったのだ。
なので若い者達はこの村に来る旅人と同じくこの村を出て行ってしまった。当然といえば当然の結果だ。この村はいくら旅人の行き来が盛んで栄えているとは言え、特に何も無く山々に囲まれた田舎の村なので隣国の栄えた所へ行ってしまうのだ。
 
ただ、この三人を除いて……。
 
 
「ったく、とっとと起きろ!アスカ!!」

灰色の髪をした十数歳の少年がダルそうに目の前のベットの上で気持ちよさそうな寝息をたてて眠る赤い髪をした同い年くらいアスカと呼ぶ少年を揺する。

「むぅ〜……あと10分〜……」

だが少年は問いかけに対してうなりながら
枕に頭をこすりつけるばかりで一行に起きる気配はない。


「ちっ…しゃーねぇ…」

起こしている側の少年がその気持ちの良さそうな寝顔を見て少々悪態つくとベットのシーツを掴み一気に引いた。

つまり、その上で寝ているものは全て当然落ちるわけで……。


ゴロンゴロンッ!!

「いってぇ―――!!!だぁ―――っ!!!!何すんだよ!グレイ!!!」


盛大な音とともにくくりつけたベッドから転がり落ちた衝撃でアスカの頭にはおおきなたんこぶ。
痛みにうっすらと涙を浮かべながらグレイに反論するアスカ。
大きな瞳を開くとアスカは寝顔よりもさらに幼いように感じる。

「っせーんだよ!テメーが自分で起きれないから俺がわざわざ起こしてやってんだ。 少しは感謝しやがれ!」

「何が感謝だよ!グレイは俺を起こしてんじゃなくて落としてんじゃねーかよっ!」

「ケッ!テメーには其れで十分だ。それに普通に起こして起きないテメーが悪い。」


2人がぎゃあぎゃあと言い争いをすると突然高い女性の声が室内に響き渡った。


「ハイハイ!口喧嘩はそのくらいにしてっ!ほら、仕事の時間よ!」


そこにはその2人と同い年ほどの澄んだ青い瞳と薄く蒼みがかった銀髪の長い髪をした聡明で落ち着いた雰囲気の少女が立っていた。名はティアである。
アスカとグレイは渋々喧嘩を止めてティアの方に向き直った。
ティアはそれを見て満足そうににっこりと微笑み「よろしい」と言った
 
彼等の仕事というのはこの村にたった一軒しかない鍛冶屋の手伝いである。三人は様々な事情があり、この村に定住している唯一の若人だ。
三人は他の若者達とは違いこの村を出て行く気は無かった。その大きな理由の一つはこの村が好きだったということだろう。
若者達からすれば刺激が足りないつまらない毎日かもしれないが彼等はそれでよかった。
ただ毎日が普通に楽しく静かに過ごせられればそれでよかったのだ。
 
 
 
「おぅ!遅かったじゃねぇか」

少し古ぼけた木の小屋から強面の大男が快活に笑って出てきた。鍛冶屋の主人ディードである。ディードは長身で口には立派な顎鬚をたくわえた大男だが心優しい男だった。もちろん三人にもとても良くしてくれていた。
せかせかとティアは手際よく仕事にとりかかりながら言った。


「あっ、すいません!すぐ始めますね……!!」

「ティアが謝るこたぁーねぇ!どーせまたアスカあたりが寝坊でもしたんだろ」

「うぉ〜!すげーオヤジ!エスパー?」


アハハと笑うアスカにすかさずグレイの拳がとんだ。それは見事にアスカの頭にクリーンヒットした。


「って〜〜!!何すんだよ!グレイ!!」

「ハッ。俺は自分がワリィーのに謝りもしねぇータコを小突いただけだ」

「こんなの『小突いた』に入るかよっ!!」


朝の寝室での会話の繰り返し。
また口論を始める二人を半ば呆れたようにティアは見守る。
今にも喧嘩が始まりそうな2人のやり取りがディードの声によって妨げられた。


「ガハハハハッ!相変わらず仲が良いのはわかるがぁそろそろ仕事を始めてもらわんとな、
 今日はちょいと町まで行ってもらいたいんだが・・・」

「え!町!?」
その瞬間アスカの瞳に光が宿った。


「おぅ。剣に使う皮とか宝石とかが無きなりそうでな。買出しに行ってもらいてぇんだ。」

そう言いながらディードはちらりとアスカを見た。
アスカはニカッと屈託の無い笑みをこぼし二つ返事で答えた。

「行く!!」

ディードはアスカの言葉に満足そうに微笑んだ。
こんなふうに無邪気になったアスカは止められないとわかっているグレイとティアやれやれというムードだ。
ディードは今一度ティア達の方に向き直っていった。


「ティア、グレイ。アスカを任せたぞ。」

その言葉にアスカはむぅ〜!!と頬を膨らませて反論した。


「ヒデェ!それじゃまるで俺が足手まといみてーじゃん!」

「ターコ。『みてー』じゃなくてそうなんだよ」

「な!!そんな事ねーよっ!!なぁ!ティア!?」


グレイに言われて更にムキになるアスカはティアに同意を求めが

「……私に同意を求めないで…」

とティアは呆れるよう言い放ちまた作業を始めた。

あたりを見回すが自分の味方になってくれそうな人物はティア以外に見当たらず
結局多数決で負けたアスカはがくっりとうな垂れた。

 
そんな風に他愛ないことを話しているとディードが店の奥の古ぼけた木箱から美しい赤い宝玉のついた剣を取り出した。

「アスカ!一応モンスターとか居るだろうからな。オメェの剣はもう刃が綻びて来ただろ。もってけ!」

アスカは投げつけられたそれをひょいっと身軽に受け取った。
今まで使っていた剣は抜きとりその剣を腰にさした。
まだ新しくなじめないでいるが太陽光にあたって宝玉がきらりきらりと光って美しかった。

「さんきゅオヤジ。んじゃ!行ってくるっ!!」
「おぅ!気ぃ付けろよ!」
 
三人は隣町へと出発した。
恐らく彼らの速度ならば日没より数時間前に帰ってくるだろう。
三人の姿が肉眼で確認できなくなるまで見送るとディードは
三人が居ない分山ほど有る仕事をするために店の中に戻った。

 
が、突然小屋の扉が荒っぽく開かれた。
 
 
そこには黒いマントを被り、明らかにこののどかな旅人の村とはそぐわぬような重装備の鎧をつけていた。
兜のため顔までは見えぬがその背丈からしてかなりの大男だと思える。
無言で男は店内を見回した。
しかし何か物を買う様子もなくただ風景を眺めるように見ているだけであった。

その男の姿と気配を察知しディードは警戒して愛用の斧を隠し持って男に話し掛けた。

「お前さん何者だぃ?」

男はしばらく店内を見回していたがディードに話し掛けられ向き直った
男の左腕には重そうな金属で出来たシルバーの腕輪のような物があり
そこには見た事も無いような変形した文字がびっしりと刻まれていた。
じっと男はディードを睨みつけた ――いや表情までは読み取れなかったので正しくは見たという方がいいかもしれない
だが、そこには確かにただならぬ殺気に満ちた空気が充満していた
 
 
 
 
一方アスカ達はというと
 
「にしてもキレーな剣だよなぁ〜」

アスカは先程貰った剣を眺めていた。
剣は西洋の洋館に飾ってあっても違和感の無いほど煌びやかで美しいデザインだった。
よっぽどの職人が洗練されたデザインの上で丹精に作り上げたとういう事実がありありと感じられた。


グレイも同じく剣を眺めていた。だがグレイはその剣よりも剣の存在自体に疑問を持っていた。
この剣は造りからしてディードが作ったものではない。
旅人の村であるリオール村の鍛冶屋といえど大した収益もない田舎の店だ。
なのに誰が見ても相当の値が張りそうな剣が何故あんな鍛冶屋にあるのか?
そしてほいほいとアスカに何故ディードはそれを手渡してしまったのか?
疑問点は次から次へと沸いてきた。
 

「ちょっと!2人とも手伝ってよ!!」

そう言うとティアは一人では到底持ちきれない大荷物を抱えて店から出てきた。

「こんなにぃ!?」

それを見てアスカは心底嫌な顔をした。
当然これを持ち帰るという事は谷や峠を越えなければならないからだ。

「いいから持て、アホ!!」

そう言ってグレイは荷物の半分ほど持った。半分とはいえ相当な量だ。

「うっ!……。わかったよ!俺も持つ!!」

アスカはグレイが持つのを見るとライバルにはどんな点でも負けたくないのかグレイに負けじと同量ほど持った。
結局ティアが持つ分は全体の十分の一にも満たないほどだった。


「2人とも無理しなくていいんだよ?」

「「いいんだ!これで!!」」

ティアが苦笑しながらグレイとアスカに言ったが二人は声を見事にハモらせて言葉を返した。
こういう負けず嫌いなところだけは似ている。とティアは呟きそうになったが
二人が似ているだなんて事実は決して二人は望まないだろうから心の中だけで留まらせておく事にした。
 
「ならいいけど…。いたっ!!!」
 
ティアは突然頭を抑えてふらついた。
慌ててアスカがティアの身体を押さえる。

「ティッ…ティア!?大丈夫?」

丈夫というわけではないが人並みの身体を持っているティアが
先ほどまであれだけ元気そうにしていたのにふらついているので心配はより大きかった。
額にたまのような脂汗をかきながらティアはなんとかアスカにしがみついて体制を整える。


「大丈夫。……でもとても嫌な予感がするの」

「予感?」


予感などと第六感的な事をティアが言うのはこれが初めてだった。
でもティアは冗談でそんな事を言うような性格じゃないことは十分2人とも承知していた。
だからこそいつも冷静なグレイが焦りを隠せなかった。

「その予感具体的にわかるか?」

ティアは首を横に振った。
まだ息も荒く辛そうにしているが一生懸命かすれる喉で声を絞り出した。

「わからないわ…でもっ村が…村が危険な気なの!!」

「リオール村が!?」


ティアは大きくうなずいたが、たぶんとつけたした。
それは自信が無いというよりも信じたくないからゆえの行動だろう。

グレイは俯いて少し考えると向き直った。


「ティア、歩けるか…?」

「うん……平気」

「荷物は預かり所に一旦預けて急いで村に戻るぞ!」
 

ティアとアスカは頷き3人は出来る限り急いで村へ戻った。
 
 


「なんだよあれ……」

日が少々陰り薄暗い森の中を歩いていて村の方角だけがほんのりと赤みを帯びて
明るく照らされているのが肉眼でも確認できるようになった。

近づけば近づくほど増す熱風。

焦りを感じながら三人はさらに足を速めた。


村は炎の海に包まれていた。
宿も薬屋も三人が見知った風景がすべて形をなくし
村人と旅人は無残にも斬り刻まれ恐怖に苦しんだり怯えている表情までハッキリと残っていた。
抵抗する暇も無く殺されたり逃げ惑う人も後ろから刺されたような傷が痛々しい。
生存者は見渡す限り居なかった。

「嘘だ……こんなの、嘘だっ!!!!!!」

アスカの悲痛な叫びに答える者は居なかった。

グレイもティアもこれが悪夢であると信じたかったからだ。
3人は冷酷なこの現実を受け入れるにはまだ幼くただただ立ちすくむばかりであった。

ガタッ

突然物音が聞こえた。
3人は生存者がまだ居ると思い急いでその音の方向へ近寄った。
……そこはあの鍛冶屋であった。

「ァ……アスカ……」

「!!オヤジ!?」

屋根とディードの間に斧が立っていてその僅かな隙間にディードはいた。
奇跡的に自分の愛用の斧に身を守られ屋根の落下の衝撃をある程度防げたのだ。
とは言ったもののその隙間は上半身の僅かなもので下半身に柱が突き刺さり虫の息という感じだ。


「大丈夫か!?一体何があったんだ!」
「グ、レイか…。剣は…無事か?剣を守れ……奴等は、剣を…狙って……」

ディードは話している途中で吐血し力無く地にへりつくばった。
三人は慌ててディードにかけより瓦礫をなんとかしてでも動かそうとする。
しかしそれは全て取り除くまでには夜になってしまうだろう。
三人の少年少女で何とかなるような量ではなかった。


「オジさん!?もう話さないで下さい!急いで隣町へっ!!」

「ゴホッゴホッ……もう無駄だ、ティアッいいからお前等は剣を守って早く逃げろっ!
 あいつが戻ってくるッ………前にッ………」

「何言ってんだよオヤジっ!オヤジも一緒に!!」

アスカが必至で涙ぐみながら言った。
差し伸べられた手を弱々しい力でディードは跳ね除けた。
それを見てグレイは無言で何かを決心したらしく立ち上がりディードに背を向けた。


「………行くぞアスカ、ティア」

そうグレイはオヤジの意志を受け入れる決心をつけたのだ。

「何言ってんだよ!?グレイ!!そんな事できるかよ!!」

アスカは絶対嫌だと反抗した。
「まだ他のみんなの弔いだってしてないのにっ……」

旅人以外の僅かな村人は人数が少ないからこそ繋がりも深いのだ。


「グレイの言う通りかも知れない……」

ティアも沈痛な面持ちをしながらゆっくりと立ち上がった。


「何言ってんだよティアまでっ!!俺はっ!!」

「まだわかんねぇのか!!!」

パシンッ

一瞬の出来事に驚きアスカは続きの言葉を失った。
ティアがアスカの頬を叩いたのだ。
いつも冷静で、誰かを傷つけたりは決してしないあのティアが……

「ティ……ア………?」

呆然と立ちすくむアスカ。
ティアの頬には涙が伝っていた。


「アスカ…行こう?…じゃないと…一体何の為に私たちが生かされてオジさんや皆が傷つき倒れたのか…わからないよ…
 私達が、皆のぶん生きなかったら……もう……死んでもみんなと顔あわせれないよ?」

ティアは涙ながらに肩を震わせつつ必至にいつもの笑顔を作っていた。
村のみんなが好きだといってくれた、看板娘としての笑顔を。

「…行くぞアスカ」

ティアもグレイも背を向け再び町に戻ろうとしていた。
 
アスカは言い返すことは出来なかった。
ティアの言う事は間違っていないから。
今の自分にも二人が納得するような理由を考えることが出来ないから。
 
 
自分の不甲斐無さが痛みとして全身に染み渡った。
「ちくしょう……ちっくしょ―――――――!!!!」
 
辛さと申し訳無さを噛みしめながら駆け出す三人を見て
ディードは静かに生き耐えた。
 
 
 

 
**後書き**
メイン連載なんだからキチっと良い作品に仕上げたい!と思いましたので書き直し・・・嗚呼・・・何日かけたことやら;
苦悩の日々よ・・・・でも駄文(涙)
つーかヒロインのティアちゃんの口調が自分で作っといていまいちつかめん〜。う〜んでもまだまだ書き直ししなきゃならん小説はいっぱいあるので頑張らなければ!!

 
2004.2.7.ミスト

2005.7.25.ミスト 加筆

 

 
  

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