フィンと少年が師弟関係になってから早数日。
そんなある日の出来事でした。
 
少年の名前はルィン・ノーイと申します。
キラキラと煌く金色の髪をしていて瞳の色も
どこまでも陰りの見えないゴールド。
よく見れば顔立ちもそれなりに整っていますが
その言動からどこか童顔で幼いと言う印象を与える少年でした。
ルィンはたいした働き者で
どちらかというと、というより完全に日々の生活がぐうたらしている
フィンとの相性はまぁまぁと言ったところでしょうか。
今日も早朝からせっせと掃除洗濯家事一切を取り仕切るルィンが働いています。
女の子の面子まるつぶれですがフィンは残念ながら
そんなことを気にするようなか細い神経はしていませんでした。
ルィンは魔法使いの弟子と言うよりも
如何してか召使……むしろ下僕のように扱われている
気がしてなりませんがフィンが頼んだわけではなく
ルィンは家事をこなす事全てを自主的にやっていました。
他人が何をしようが我関せずとでも言いたげな
性格をしているフィンがとやかく何かをルィンに言うわけでもないし
やっぱりそんなことに一々引け目を感じてしまうほど乙女な性格を
フィンは持ち合わせてはいませんでしたので

今日もフィンの周りを流れる空気は相変わらず
どこか一般の人々とは違い

緩やかに、静かに時が流れていました。
 
そんなある日の昼下がり……
 
トントンッ

ドアノブをノックする音が聞こえて
フィンは本から視線をそらした。
「郵便でーす。」
どうやら来たのは郵便屋のようだ。
この村は人口も少ないがその上フィンの住むところは
少々村自体からも離れた所にある。
そのため、郵便は毎日届くわけではなく
どうせ重要な手紙など来る充てもないのでフィンからも
郵便屋に配慮……というか毎日玄関まで行くのが億劫だったために
数週間に一回のペースで届いていた。
どうやら今日はルィンが弟子入りしてから
はじめての郵便屋の到来である。
「僕出ますねー。」

まだ数日しか経っていないというのに
ルィンにはみっちりと雑用係の魂が吹き込まれたらしく
フィンが椅子から立ち上がる前ににこにこと
玄関に向かっていった。

いつもならそのままルィンにやらせるフィンだが
何故か今日は組んだ腕の上に顎を乗せてふむ、となにやら考えていた。

「えぇ……構いません、けれど……」
「けれど……?」
なにやら歯切れの悪いフィンの受け答えに
疑問符を浮かべながらルィンが振り向く。
「不用意に開けると危ないですよ」
ガチャリッ
「え……?」

フィンの言葉はもう遅かったようで
扉はすでに開いていた。

バサバサッ
「うわぁ!!」
ドンッ!
ドスッ!!
ワサワサ………
 

「だから言ったのに……」
まるで自分は悪くないと弁解するかのように
呟いてフィンは椅子から降りてルィンに近づいた。

「あの……なんですかこれ?」

どうやら身動き取れないらしい
ルィンが苦しそうに言う。

「何って……郵便ですものお手紙でしょう?」

そういって届けられた手紙の一通を手にとってくすりと微笑む
フィンに対し理不尽な回答だと不服そうに少し頬を膨らましてルィンが言う。
「にしても量が半端じゃないですよ」
イタタタタといいながら腰をさすって
ルィンはゆっくりと立ち上がった。
「これ本当に全部お師匠様宛てなんですか??」
そう、郵便物は全て手紙だというのに
何故か山のようにあるのだ。
「えぇ、まぁそういうことですね。
 内容は呪いの手紙あたりでしょうが」
弟子への心配など何処吹く風で
一通一通の確認もせずにとりあえずフィンは
手紙全てを一箇所に風の魔法をつかってあつめた。
「流石お師匠様モテますね♪」
天然なのか冗談なのか。
にこにこと馬鹿の一つ覚えのように笑う
ルィンからそんな声が漏れた。

ゴオォォォ……
静かにゆっくりと手紙は魔法によって燃えていった。

「まぁ、色々とね」
ルィンの笑顔とは対照的に
ふっと思い出し笑いのようにフィンが微笑む。
それは邪気に満ち足りたもので
微笑むなどとゆう生易しいものではない感じだが
ルィンには一切通じないようだ。

天然というのはなんとも便利なステータスである。
呪いの手紙を出したのが誰なのかなど
ルィンはどうでもいいらしく、むしろフィンがモテていると
まだ思い込んだままでフィンはフィンで訂正するもの
面倒だといわんばかだった。
二人がさて室内にもどらんとするときに
不吉な笑い声が高らかに響いた。

「オーホホホホホホッ」

女性と思われる甲高い笑い声。
ルィンは思わず足を止め振り向いたが
一向にフィンは足を止めようとはしなかった。

「ってお待ちなさい、フィン!!
 ここであったが千年目!!今度こそケリをつけますわ!!」
木の上にたっていた女性は
スタリと地面に軽やかに着地して
宣戦布告といわんばかりにフィンを指差した。
女性は近くで見るとなかなか端正な顔立ちをしていた。
アジア系なのだろうか。
少々つり上がった両の瞳は艶やかな濡れた様な黒で
フィンや他の人のそれとは違う魅力を感じさせる。

「……毎回毎回飽きませんね李艶(りえん)……」
やれやれというようにフィンが軽くあしらうと
李艶と呼ばれた女性はますます憤慨したようでギッときつくフィンをにらみつけた。
が、しかしそんなことがフィンに通用する訳がない。
「嗚呼!忌々しい!何故わたくしのような高貴な存在が
 貴女のような小娘に手を煩わせなければなりませんの!?
 それもこれも全部……」
それまで立ち止まって女性の話を聞いていたが
女性がいまにも自分の武勇伝でも語らんとしているので
再びフィンは室内へ戻ろうとした。

「って、逃げんなオイッ!!あら、嫌ですわわたくしったらはしたない。
 こほんっ。そうまでして……いくらわたくしに負けるのが怖いからって
 シッポをまいて逃げるなんて見上げた卑怯者ですわねフィン・フェアリー!!」
「待ってください!お師匠様は卑怯者なんかじゃありませんっ!!」

聞く耳を持っていないフィンに代わる様に
ルィンが尊敬する師匠に罵声を浴びせられたからか怒りながら言った。
怒ると言ってもがなるように捲くし立てるのではなく
静かに、丁寧にいうその口調は逆に薄ら恐ろしいものを感じさせる。
それには流石のフィンも反応して
思わず足を止めてルィンの方を向いた。
あれだけ温厚で、絶やす事ない溢れんばかりの笑みを浮かべていた顔は
まっすぐと静かな怒りを灯し、それは李焔に向けられていた。
それは静かでは在るが視線を直接向けられていないフィンですらルィンの気迫を
認めざる終えないほどの勢いがあった。
まるで青くゆっくりと燃え広がる炎のように……。

一瞬たじろぐ李艶だが生来の高飛車な性格からか
それともフィンと同じく素質のない少年だと推理したからか
挑発的にはっとルィンを冷たく笑い飛ばした。

「あらフィン。こちらの方はどなたですの?」

いつも以上に嫌味たっぷりに、冷笑しながらいう
李艶にルィンは動じない。
むしろ驚いていたのはフィンの方であった。
まだ数日しかともに生活していないとはいえ
ルィンがあのような態度をとるのが意外でならなかったのだ。

「弟子です。」
「弟子?どなたのですの?」
「彼、ルィンは私の正式なる弟子、いわば唯一の後継者です。」

その言葉に驚いたのは李艶だけではなかった。
”弟子”ということは認めてはもらったが
ルィンは後継者等と呼ばれるとは夢にも思っていなかったのだ。

「まぁ?!貴女は弟子なんてとらないと言っていたではありませんこと?
 それがいきなり後継者ですって!?しかもこんな……
 ま、貴女みたいな低俗な弱小魔法使いにはこの位の貧相な……」
「それ以上……それ以上お師匠様を侮辱するのはやめてください」

李艶の言葉をさえぎるようにルィンが言った。
ぎりぎりと握り締め、震えたその手は怒りそのもの。

あれは………

フィンにはまだ魔法を発動しようとしていないと言うのに
ルィンの拳からは既に僅かながら魔力が溢れ出ているのが見えた。
高ぶった心が自制心を忘れて魔力が放出されているのだろうが
それにしても己の意思なく魔力が出てくるなんて
魔力の高い魔法使いだって滅多にある現象ではない。
それほどに、ルィンの魔力は強大だということだ。
李艶はそれに気づいていない。
否、気づけない。
放出されるといっても無意識下の事なので
ルィン本人も気づかないほどほんの僅かな魔力。
魔力の変化に敏感な研ぎ澄まされた感覚を持つフィンだから気づけることであり
一般大勢の者はもちろん李艶ごときでは到底察知できるようなものではなかった。

にしても高ぶった心で自我が保てなくなるようでは
一流になるには失格といった所だろう。
くすりと微笑みそっとルィンに近づきフィンは彼の手を握った。
ビクンッと驚いたルィンの体がゆれて
緊張してこわばった体が解きほぐされた。
やっと開かれた彼の手は、痛々しいほどに爪が食い込んだ痕が残っていた。

「お止めなさいルィン。李艶ごときの下等な口先だけの挑発に乗っているようでは
 まだまだ私の弟子失格ですよ?」

李艶に負けずに嫌味をフィンの毒舌にのせて笑顔で言い放つ
冗談めいた口調に李艶が黙ってはいない。

「わたくしごときですって!?まぁよくも抜けぬけとそのような事が言えますわねフィン!!
 貴女なんてわたくしがほんの少し本気を出せば一ひねりで……」
「なんとでも言ってください。」

静かに。だがはっきりと。

李艶の言葉を遮る様にフィンが言う。

「ただ、これは私も人のことを言える口ではありませんが……
 他者の実力を測り違えているようでは負け犬の遠吠えのようにしか聞こえませんよ」
「なっ……」

あっけにとられている李艶をよそに
フィンはそれでは、と軽やかに会釈をして
ルィンをつれて屋敷の中へと戻っていった。
 
パタンッ………
 
閉じた扉を背にルィンが不思議そうにフィンを見つめる。

「あの……えっと……先ほどは出すぎたまねをして……」
「いいんですよ」

しどろもどろと落ち着かない様子のルィンに対して
柔らかな微笑みでフィンが答えた。

「李艶とはいつもああですから」

そうは言われたものの
まだ歯切れの悪い返事しか返さないルィンに
フィンは机の上に放置されていた紅茶のカップを手に取りキッチンへ向かう。
冷えたそれを暖かな芳醇な香り漂うアッサムティーに淹れ直し、
二つのカップのうち、一つをルィンに渡した。
ルィンは紅茶を受け取るもののしばらく口をつけづ
ただ、紅茶の水面に歪みながら写る自分を眺め続けた。

そんなルィンの様子を気にも留めないというように
暖かな湯気から流れる香りを楽しみながらフィンが話し始めた。

「李艶は私が来る前からこの地域に元々いたウィッチなんです。
 ウィッチとは言えど、腕は確か。
 まだまだ荒削りだけれども修練を積めば素晴らしい魔法使いになるでしょう」

魔法使いと一般に言われるが一応格付けのようなものがある。
といっても大まかなもので細かい規定などは全く無いのだが
魔力を持ち、自在にとまではいかずとも操れる者のことをマジックユーザーという。
マジックユーザーは魔力を使えるもの全てが当てはまるので
それを魔法使いとはいわない。
魔法使いと呼ばれる人々はその己の魔力をつかって生活をしている、
つまり魔法を使う職についているもののことを一般的にさしていた。
魔法使いはその全体を大きくまとめた言い方。
あとは魔術師だの魔導師だのと己の好きなように名乗ったり
噂によってそういう通り名をつけられたりしていた。
ウィッチというのは一般的に魔女のことを言う。
魔女=女の魔法使いというのは無知な人間が文字列で勝手に思っただけのことであり
男の魔女というのも成立する。
魔女というのは薬草を使い呪いを執り行い
それを魔力にする者たちのことを指し、多大な知識を必要とされるのである。
知識量においての位としては高いが
ウィッチは特殊な儀式においてのみ己の魔力を発揮できるので
モンスターなどとの戦闘においてのレベルとしては
全く皆無といえるであろう。
中には悪魔と契約を結び代価として魂を売り
最強の肉体を手に入れる邪な魔女もいるが
李艶は正当な魔女でその一部の者たちの中には含まれはしない。
ウィッチ=弱いという概念は間違ってはいるが
フィンのようなモンスターと太刀打ちできるありとあらゆる
攻撃魔法を備えた上に、補助魔法、回復魔法
呪いや魔法儀式など全ての魔術を極めた者に魔力で勝てるわけがない。
李艶はフィンの正体など露にも知らないのだから少々可哀相だ。
フィンに褒められるほどだ、腕は確かなのであろう。
しかし、いくらフィンが本気を出していないとはいえ伝説の魔導師には適いはしない。
フィンの説明によると李艶はこの村の自警団のリーダーのようなものだった。
この村は田舎に位置する村ゆえに誰も目にもとめていないので
何者かに襲われる危険は少ないのだが山奥にあるので
モンスターからの被害は大きかった。
李艶はこの村出身ではないが
何の理由があるのかはフィンすら知らないが
この村に住み着きモンスターから村人を救っていた。
救うといっても前線で戦う能力のない李艶は
呪いを使って聖域を張って邪なものが入れないようにしていた。
その上魔術を私利私欲に使用したり高飛車なところは多々あれど
あのルックスとカリスマ性においてこの村で
一種の小規模な英雄のように尊敬視されいた。

数年前そこに転がりこんできたフィン。
別にフィンはそこまで下調べしてやってきたわけではないので
李艶が居るとは知らなかった。
もちろん面倒臭がり屋のフィンが李艶が居るからといって
李艶の仕事を奪おうなんて全く考えていなかった。
むしろ真っ向から願い下げ……のはずであった。
ある日李艶が張っている聖域外に無知な幼い子供が出てしまったのだ。
フィンの屋敷も村はずれにあるため聖域外。
フィンが何気なく森を散歩していたときモンスターに襲われている
子供と偶然会い、助けたのが始まりであった。
いかに聖域と言えども完全ではない。
より強力な力をもってすれば脆く打ち敗れてしまう。
それに変わってフィンの魔法は
直接モンスターと対抗する力をもっていた。
民衆がどちらにつくかは簡単であった。
始めこそ森の奥に住み交友関係のない
しかもまだ少女と呼ぶ範囲内の子供を信用はしていなかった。
民の心が傾いた根本的な原因は李艶自体にあった。
 
高飛車な性格の彼女は
自分の英雄の座をフィンに取られたといわんばかりにフィンを敵対視した。
フィンからすれば、はた迷惑な話である。
この村を守りたいなんていう強い意志など初めからフィンにはない。
ただ、のんびりと暮らせればいい、それだけなのだ。

だが李艶がそんなフィンを甘んじて許すわけがなかった。
いきなり魔術対決などを申し込まれたのだ。結果は当然。
そしてフィンがこの村の英雄となったのだ。
だが面倒なことが苦手なフィンはきっぱりと断った。
自分などよりも李艶の方がずっと素晴らしい魔法使いだ、と。李艶の肩を持ったのだった。
しかしそれが逆効果になったのだ。
李艶はフィンのおこぼれとして
英雄の座をもらったと考えるようになり
毎度毎度、今しがたのようにフィンに対決を申し込みに来るのだ。
 
「だからいちいち李艶の言う事を気にしなくてもいいのですよ」

にっこりと微笑むフィンにはぁ、とルィンは空返事を返した。
それもそのはず、フィンはあまり話さない。
ルィン相手とて例外ではない。
ここまですらすらと会話をしたのは始めてであった。

「あの、ありがとうございます」
はい?っとフィンが聞き返す。
話の流れからしてお礼をいうような場面ではない。
でもルィンはもう朝のにこにこ顔に戻っていた。

「僕はお師匠様が大好きですからっ」

ルィンはぎゅっと拳を握り、熱く語るものの
鈍感なのか、計算なのかはさておき
フィンは首をかしげたまま「そう」とだけ答えた。

恐らくそれは天然なのであろう。
ルィンにとっては結構本気も多々あったのだが
フィンは冗談か、尊敬の念の言葉だと考えたようだ。
それでも目の前の最強にして、己よりも幼い魔導師を
何よりも尊く、愛しく思えるのであった。
 
 

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