昔々、ある所に可愛らしい魔導師様がいらっしゃいました。
名をフィン・フェアリーと申します。
小柄で華奢で可憐な少女はまさに妖精のような可愛らしさ、
その反面、魔導師としての力量は超一流で
アイドル的存在として崇拝されておりました。
しかし何故か
彼女の住むお屋敷のような家には
彼女の兄弟はおろか両親すら住んでいませんでした。
フィンはその一人で住むには大きすぎる家に
メイドなどの召使すら雇わずに一人のらりくらりと生活していました。
フィンにそのことを問うてもフィンは上手くいつもいつも誤魔化してしまいます。
なので両親はどうしているのか?なぜ一人で住んでいるのか?
全ての謎は闇の中です。
いつからかフィンは”追憶の魔導師”と呼ばれるようになりました。
その解釈の仕方は大きく分けて二通りあります。
一つは、フィンは幼い頃に両親をなくす等のとても辛い思いをしたために
その苦しさも悲しさも全て自分のうちだけに閉じ込めています。
地に足の着かない彼女独特の雰囲気から
いつも一人でぼうっと幼少時代の楽しい思い出の追憶にふけっているのではないか
という考えです。
そしてもう一つ
彼女は実際に何一つ覚えてはいないのではないだろうか?という考えです。
妖精のような、この世の人間ではないような
なにか常人と違う近寄りがたい神々しいオーラをまとうフィンは
ずっとずっと失くした記憶のパーツを探しているのではないだろうか。
という事なのです。
何をばかげた考えを、と思う人だっています。
ですが、年齢不相応に大人びた彼女の言動や
本能的に自分を他の人間から遠ざけているようなオーラ。
実際、彼女は村よりも少し離れた人の寄り付かない屋敷に住んでいます。
村人は彼女が何処から来たのかも知りません。
今までどうしていたのか、どうやってあれ程まで強力な魔力を幼い少女が習得したのか
仕事に就いていないフィンはどうやって生活しているのか
強力な魔力を身につけているのにこんな寂れた村に留まっているのか
謎は沸くばかりです。
ですがフィンは一切答えようとはしません。
それでも村人は人の良いフィンの性格にすっかり騙され
魅入ってしまい、フィンを信用していました。
 
 
そしてここにも一人………
 
 
そんなフィンに憧れる少年がいた……
 
 
 
 
 

暖かな日差しが窓から差し込み
そんな太陽の下でフィンは読書をしていました。
村人たちがせっせと忙しなく働く昼間だというのに
フィンの周りだけ時間の流れが緩やかに感じるほどです。
暖かな湯気の立つ紅茶をすすりながら
フィンは一日の大半をそんな風に過ごしていました。

コンコンッ

軽快なノックが耳に届き
動くこと自体が億劫な彼女はゆっくりと
椅子から立ち上がり玄関の扉を開きました。
押し売りか、はたまた村に何かあったのかと
思考をあれこれ巡らせるような律儀な性格は
生憎フィンは持ち合わせていませんでしたので扉を開いた先に居る見に覚えの無い客に
 ――といっても彼女は村人の顔すらおぼろげにしか覚えていないが
小首をかしげて営業スマイルで言う。
「私に何か御用ですか?」
扉の前に立っていたのはフィンより少しばかり年上の青年。
フィンは女性としても小柄なほうなので視線は上にいくが
青年も男性としてはそれほど背が高いとはいえないし青年というよりも
少年と青年の中間のような、まだまだ幼さが残る顔立ちだ。
にっこりと、含みの無い純真無垢な笑顔を顔いっぱいにひろげ
風になびく金髪がキラキラと太陽光を反射してまぶしかった。
明らかに、フィンとは違うタイプの人間。
そしてそれは、フィンの最も苦手とするタイプ。
屈託の無い笑みには裏が無く、どこまでもどこまでも真っ白な天然そうな笑顔。
緊張でもしているのか、少年は一度大きく深呼吸をして
はきはきとした口調で言った。
「弟子入り希望ですっ」
「はっ?」
久しく耳にしていなかった弟子という言葉。
フィンは世界最強の魔導師だということは自分で認めていたが
こんなちっぽけな村に身を隠していたため
すこし名が売れたくらいで弟子入りをしようという若者なんていなかった。
それこそ数年前は毎日のように希望者がフィンを付きまとったが
それがいやでフィンは寂れた今の村を選んだのだった。
よく見るとその少年の両の手首と足首には古代文字の刻まれた
魔術に携わるものがはめる少しばかり魔力を増幅させる
金のブレスレットがはめられていた。
魔力を増幅させるといっても雀の涙にも満たないもので
多くのものはただの宗教心じみた心でつけているだけで
実際は殆どが実力、魔法は己の精神の強靭さだけがものを言った。
今時、こんなものをつけている魔法使いなんてめったにいない。
いるとすれば超ド級の初心者や魔力のかけらも無い
素質なしのものか、よっぽどの物好きだ。
そんなお蔵入りの品をつけてさらにその上
今は過去の栄光など誰も知らないフィンのところに弟子入りに来るということは
よっぽど素質が無く、ありとあらゆる魔法使いに弟子入りしまくり
その末に見捨てられ盥回しにでもされて
自分よりも年下の魔法使いのところにでも来たのだろう。
ニコニコと無駄に真っ直ぐな笑顔を向ける青年をちらりとみて
フィンは盛大にため息をついて言った。
「んな面倒なことやってられっか」
語尾にハートマークがつきそうな勢いで
天使の笑顔をふりまき、少年に次の言葉を言わせる前に
バンッと勢いよくフィンは扉を閉めた。

「え?!はっ、あ!!フィン様ァ〜!!!」
扉の向こうから青年の声が聞こえる。
一応フィンの名前は知っているみたいた。
村人から風の噂が伝わったのか……
くそ面倒なガキだ。
内心そう思いつつもフィンはくすりと笑みをこぼした。
それは貼り付けた笑顔ではなく
ただ単に、ほんとに小さなくだらない事に対しての素直な笑み。
あの眼……

全く似ても似つかない、遥昔に置き忘れた仲間に
瞳が似ていたのだ。
何処までもまっすぐで、キラキラ輝いていて
馬鹿で単純で素直で……
自分の真っ直ぐな芯を貫き通した旧友と……。
くだらない。
そう思う傍ら、何か新しい玩具でも見つけたように
小さな事だからこそ面白い、と思えた。

「ねぇフィン様ァ〜〜!!フィン・フェアリー様!!」
ドンドンッ
と何度も扉が叩かれる。
力を入れすぎない所と扉を開こうとしない所は
一応わきまえてはいるようだ。
だがフィンは確かにこの少年に軽い興味程度は持ったが
そんな素質の欠片も無いような奴に指導をするほど
フィンは甘い人間でも人情に流される奴でもなかった。
否、例えこの少年でなくてもフィンは弟子を取らないであろう。
理由は単純。
面倒だから。

どんな名誉も権力も彼女の前では皆無となるのだ。
今ののらりくらりと自由に一人で生きる方が
フィンには合っているのだろう。
別にこの広い屋敷に一人暮らしということを
全く苦に思っては居ないしなにかわざわざ面倒な事をして
その遣り甲斐を得たいだなんて人間らしい事を考えもしないし
むしろ真っ向から願い下げ。
今現在の堕落した生活が好きなのだ。
生来の趣味である魔術の研究をたまにするだけで
世紀を揺るがす研究結果がでようとも公表するつもりなど無い。
ただ、自分の好きな事を好きなときに好きなようにする。
メイドなどフィンにとって邪魔なものだった。
面倒な事はしない主義のフィンは
本当に、ただ面倒だから弟子を取らないのだ。

もうしばらくすればあきらめて帰るだろう。
追い返す事すら面倒な彼女は
そんな投げやりな思考で紅茶を淹れ直して
再び椅子に座り読書を再開させた。

ペラリ
ドンドンッ「フィン様〜!!」
 

三十分後

「ねえフィン様ったらぁ〜」
 
 
一時間後

「僕は諦めませんからねぇ〜!」
 
 
二時間後

本が二冊目突入
「ねぇ〜フィン様〜〜!」
 

辺りが暗くなりはじめる
「僕役に立ちますよ〜雑用から何から何までやりますから〜」
 

---
 

あー、るっせぇ。
ウザイ。
いい加減諦めやがれ。
 
かったるそうに心の声に営業言葉使う余裕も
全て殴り捨ててフィンは防音魔法をかけて
ベットに横たわり眠りに就いた。

ちゅんちゅんっ♪
腹立つほどに煩い雀の声。
防音魔法はもう途切れたようだ。

そういえば、昨日の少年はどうしたのだろうと
フィンはふと思い出した。
アレだけ執着に付きまとわれていたっていうのに
このまるで他人事のような楽観的な世界観は
彼女がどれだけ緩やかな時の流れの中に居たのかを関連付けさせる。
彼女にとっては何もかもがどうでもよく。
人生などただ今、気楽に生きていければ良い程度なのだろう。

いつものようにゆっくりと朝食をとり
天気も良いので教会へでも参拝にこようと扉を開いたその時

「え?あ……おはようございますフィン様」
にっこりと昨日と寸分変わらぬ純粋な笑みを顔いっぱいに浮かべて
少々眠たそうに言う少年が居た。
きょとんとするフィンをよそに馬鹿の一つ覚えのようににこにこと笑う少年。
少年の姿を見る限り一晩中ここにいたのだろう。
季節からして決して夜までも暖かいとはいえない環境なのに
ずっと夜が明けるまで……否、フィンが出てくるまで待っていたのだ。

意地でも私の弟子になろうというのですか……
でも……
「何故……私にそこまでこだわるのです?」
フィンの真の実力を除いて言うのならばフィンと同レベルの魔術師など
腐るほど居るだろうし、門下生を集める指導の上手い優秀な魔術師だって
世界は広いのだから必ずどんな落ちこぼれだって拾ってくれるだろう。
わざわざ野宿までしてフィンである必要性など全く無い。

地べたに座り込んだまま金髪の少年は「ん〜」と数十秒唸り
弧を書くように人差し指を空に泳がせた。

「フィン様が世界で一番強い魔導師だと思ったからです」
「はい?」

一体この少年は何を言っているんだ?とでも言いたいように
フィンは思わず聞き返した。
こんな寂れた村に身を置く魔法使いが世界で一番強い?
ガキでもそんなことは考えない。

そう、唯一、たった一つの可能性を除いて……。

フィンは世界最強として名を馳せた時代があった。
ほんの僅かな間だが、時の人とまで言われた。
フィンに魔力で勝てるものなど世界広しと言えども
この世に存在しないだろう。

事実、フィンは世界で一番強い魔導師だ。

それは彼女自身も認めている。
しかしその事実を知るものがいま世界に何人いるのであろう?
時の人、というよりもフィンの存在は幻にちかいものだった。
まるで御伽噺から飛び出たように、奇怪なその存在は
人々の記憶に強く残り、そして神話のように語り継がれ
噂は尾びれをつけて、事実は薄れ消えていった。
そして時の人、フィンを追い求めた数多の魔導師。
世界中の魔法使いがフィンの弟子になる事を望んだ。
世界最強の魔法使いの弟子。それは世界最強のものに認められた称号。
魔法使いにとってこれ以上の名誉があるだろうか。
しかしフィンにとっては弟子なんて面倒な事は御免だったし
人を教えるなんて真っ向から願い下げ立った。
そして追われる身のフィンはそのウザイ魔法使いから逃れるため
自分の身を隠すために今寂れた村に落ち着いているのだ。
そのおかげでもともと存在が神話のような話だったために
人々の記憶はやがておぼろげになり、今では薄らな記憶だけで
どこにもフィンの記録など残っては居ない。

たった一つの可能性。

そうそれは、あまたの魔術に携わる者たちが捜し求めた
伝説の魔導師フィンを見つけ出したということ。

ありえない。

何人ものその名を世界に広める著名な魔術師までもが結局
フィンを見つけることが出来なかった。
それを、こんな才能の欠片も見えない少年が
フィンを見つけ出すなんて。

「三年もかかりましたよ。フィン様を見つけ出すまでに」

三年?
夢見がちな魔術師は今でもフィンを探していると言うのに。
幾人もの著名な魔術師が何年も探しているのに捕まらなかったのに。
この少年はたったの三年で私の居場所を見つけ出した?

「幻の妖精…………”終焉を告げる妖精”フィン・フェアリー。
 世に名を知らしめた後、ふっと消えた」

そう。
フィン・フェアリー。
名前から私は人々に”終焉を告げる妖精”と呼ばれた。
それにフィンが本気を出せば
どんな戦力的に持久戦となるような戦争だろうが
終わりがあっという間にくる。
そして、それすなわち、死。
終焉とは人の死を意味する。
力があるからこそ、人の命を容易く奪える。
それが嫌だからこそ、フィンはその世界から身を引いた。
フィンを兵器のように戦争の道具としかみなしていない大人たち、

死に怯え、フィンを恐ろしいものと逃げ惑う市民、

そして、肉親を殺された人々からの
 
 
痛々しいほどの
 
 
 
軽蔑の眼差し。
 
 
 
「貴女の弟子になりたいと思う者はこの世に百といます。
 魔法に携わるものとして当然の事ですよ。」
にっこりと微笑む少年。
彼は本当に、フィンをフィンと知った上に
弟子になろうとしているのだ。
「私はあの世界に戻るつもりは在りません、絶対に。」
力が全て、
より強大な力を持つものが頂点に君臨する。
今のフィンにとって力などどうでもよかった。
日々精進する事は魔導師としての本来の性質で忘れた訳ではないが、
かと言って頂点に立つ意味などフィンの前では皆無なのだ。
誰が強くて誰が弱かろうが関係ない。
もうあの血に汚れた道を歩く気にはなれないのだ。

「もちろん存じております……それでも僕は……」
「それに……」

少年の言葉をフィンが遮る。

「私は自分の弟子にそんな道を歩ませるつもりは毛頭ありません。」
 
「……え……!?あの……それって……??」
フィンの言葉に少年はしどろもどろと
単語を紡ぐが言葉にはならない。
少年の言葉を代弁するかのようにフィンが言った。

「それなりの覚悟はできているんでしょうね?」
「はいっ!!!」

そして、年下の師匠と年上の弟子の
奇妙な師弟関係が始まった……
 
 

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