9月20日   過去に囚われることなく

生徒会室にて書類整理を行っていたら
唐突に、本当になんの前触れもなく凍也が話しかけてきた。

「ねぇ先輩?」
「んん〜?にゃに、凍也」
「先輩って奏真に嫌われてますよね」
「……あはっ☆やだだなぁ凍也ったら。
 あれは照れ隠しという名の愛情表現の一種なんだよ?」
「でも嫌われてますよね」

いったいなぁ凍也てば。
いつもよりも猫かぶり度が落ちてない??
素が出てるよねぇ…まあいい傾向といえばそうなんだろうけど。

「べたべたしなきゃ嫌われないのに…やめないんですか?」
「うーん。ほら、スキンシップって大事だし」
「でも嫌われる原因ですよ」
「ぅ…わぁん〜何?いぢめなの凍也ったら!?」
「や、そーゆーわけじゃないですけど…」

うそ泣きしてみたら酷く冷めた表情をされた。
あーあ。つまんないの。
奏真とか時人とかなら面白いくらい反応してくれるのに。

「なんでブラコンなのか気になったんで。
 そういうのってきっかけとかあったりするんですか?」
「ん〜どうだろ」
「どうだろって、先輩の事じゃないですか」
「ほら。僕って変人だし?」
「へぇ、自覚あったんですね」

本当。冷めてるよね、僕の前だと。
なんだろう、属性が近いから…とかかなぁ。

ていうか凍也の手止まってるよ。
この仕事僕ひとりでやると今日中に終わんなくて時人に怒られちゃうし。
また眉間のしわが深くなっちゃうねぇ〜困った困った。
凍也は、怒られるのは…どうなんだろう。
追いかけてるからなぁ。他人の背中を追う必要なんてないのにさ。
ま、意地っ張りなところは結構似てるかもね。上手く成長してくれればイイ線いくかもしれない。
もっとも、それが凍也にとって幸せになるのかどうかはまだわからないけれど。
壁を失えば人は安易に崩れる。例えそれが壊そうとしていた壁だったとしてもだ。

「きっかけは……たぶん八年前くらいかな」
「八年前?えーっと、小五くらいですか?」
「うん。で、その当りの頃は奏真がまだ苛められてたんだよね。
 兄としては見ていられなくっていつも僕が奏真を助けていたんだよねぇ〜」
「苛めって…あのタイプは苛められるように見えませんけど」

そういえば凍也は中等部からの編入組みだったから知らないんだった。
確かに中等部に上がる頃には奏真は苛めを全く受けていなかったもんね。
今の奏真のタイプは長いものには巻かれろみたいなところがあって
当たり障りなく本心を押し隠して皆に平等に接するように意図的に心がけていた。
あんなんじゃ、無理しすぎてそのうちガタがでるんじゃないかと心配で心配で……。

「まぁそこら辺は色々あってサァ〜。昔は自分の意見は絶対に真っ直ぐ!みたいな
 いわゆる熱血漢みたいなところがあったもんなんだよ〜」
「ふぅん。それで、先輩の変人のハジマリは苛めとどんな関係があるんですか?」

その表情は言外に至極どうでもいいといった言葉を含ませていた。
クールでドライ、むしろそう見えるように心がけているのか、はたまた無意識か。
そんな生き方は僕からすれば疲れるだけな気がするんだけどなぁ〜。

「んっとね。ホラ男の子ってさ、年を重ねるごとに自分のプライドっていうのができるデショ?
 その頃からだんだん奏真の中でお兄ちゃんに頼ってちゃダメだって思い始めたんだろうね。
 元々生真面目だったからなおさらなのかな。
 で…自力で苛められないようにどうにかしようと思った結果がアレってわけ」
「先輩のベタベタと奏真の兄嫌いと関係なくないですか?」
「えーっとね。実は…奏真苛めの一端の中に僕も原因に含まれてたんだよね。
 ホラ、出る杭は打たれるっていうでしょ?でも僕って打たれても平気なタイプだしさぁ〜
 なかなか打たれてくれない杭の八つ当たりに…ってわけなんだよね」
「…それで憎まれた?」
「ううん。憎しみじゃないと思うよ。自分のせいで僕を巻き込んでしまうかもしれないから
 なら自分が僕から離れれば僕が苦しまなきゃならない要因はなくなるって感じかな。
 ……って言っても、そうなんじゃないかなぁ〜っていう僕の妄想だけどね」
「随分とポジティブシンキングですね。
 ひょっとしたら単純に忌み嫌われてるだけかもしれないですよ」
「え〜〜!そんなこといっちゃイ・ヤ♪」
「イヤって…」

むしろその方が僕にとってはありがたい。
僕を責めてくれればいいのに、きっと奏真は自分の無力さを呪っているんだ。

「でも僕ってば弟が大好きでしかたないからああしてるってこと!
 笑顔で接すればきっとむこうも僕の事を大好きになってくれるよ!うん」
「何一人で納得してるんですか…」

本当は、違う。
己を責め立てて、僕から離れていってしまわないように、しているだけ。
いつか僕を本気で拒絶してくるのが怖いんだよ。
今の凍也じゃわからないかもしれないけど
いつかきっと凍也にもわかる時が来る…そんな気がする。これも僕の見た蜃気楼。

「さ〜って!とっきーに怒鳴られる前にちゃっちゃと終わらせよぉ!」
「先輩ってやっぱり変人ですね」
「えっへん」
「……褒めてないですよ」
 


 

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