11月10日   人は悩んで大きくなるの

 

少女が一人たたずんでいた。
そこは美術室。少女はもちろん美術部部員。

だから、いることは不自然ではない。
だが何か不自然な少女だった。


「渚ちゃん。なにやってるんだい?」


声をかけられてようやくこちらに気がついて振り向く少女。
淡白で、揺ぎ無い視線のまま渚は問う。


「なんですか、三津先生」

「ん〜?なんかぼーっとしてたから」

「ちゃんと作品は仕上げてますよ」

「や、そゆことじゃなくてサ」


正直作品なんてどうでもいい。
彼女は真面目で絵のセンスもあり実力もある。
別に怒るつもりもないのにそんな応答だとむしろこちらが拍子抜ける。

渚は再びキャンパスの方へ視線をずらしてしまった。

ふぅ、と小さくため息。

たかが十数歳の少女だというのにこの子の前では息苦しささえ感じてしまう自分に嫌気が差す。
そしてその息苦しさの中で生きている彼女に、救いを差し伸べたいと思う。

でも無理なんだよねぇ僕じゃ。


話し相手が居なくなってやる事もないのでそっと後ろから邪魔にならないように
渚が描いている絵を見た。油絵だった。

見たこともなくて見たことがありそうな。不思議な世界。
恐らく何かの抽象画だろう。


絵にはその人の心があらわれる。
三津はその繊細なタッチの奥底に少女の心の中のかすかな叫びを聞いたような気がした。
今にもかき消されてしまいそうな、か細い声。
しかし、痛くて痛くてしかたがなくて。途絶えない声。

まさに現在の彼女そのものだった。


「……渚ちゃんは頑張りすぎだよ」


その呟きに渚は答えない。
肉体的疲労についてのことではないと理解しているのだろうが筆をおいて手を休めた。


「あのさ、一応僕も相談くらいにはのるよ?」

「………先生に相談してどうにかなるような事だったら
 私は、こんな酷い絵を描いてませんよ」

 

ああ、また…

この少女はそうやって自分の殻に閉じこもろうとする。
そして教師でありながら僕は彼女に何も出来やしない。

自分を自分で痛めつけて。嘲笑って。
壁を作って、逃げ続けている。その繰り返し。


「でもサ、気持ち軽くなったりは、するかもよ?
 人間って馬鹿だからホンの小さなことで考え方って変わっちゃうもんだし」

「そんな馬鹿が全部の人間ってわけじゃないです」

「うーん。そうかなぁ?僕は完全な人間なんて存在してないと思うけど」

「完全じゃなくても揺るがないもののひとつくらいあってもおかしくないですよ」

「………かも、ね」


ほうら。まただ。

自分よりも大人で。でも子供だから。苦しんでるんだ、彼女は。
息苦しいのはそのせい。僕よりも下手すりゃ大人かもしれないんだもの。


「ねぇ…」

「なんですか?」


淡々と声だけが響く。

 

「人の心って痛いよね」

「…………ですね」


痛みを知る人間のほうが器が大きい。
きっと自分よりもこんな小さな少女のほうが痛みが大きいから。
だから自分よりも少女の方が大きくて、息苦しくて、でもまだ未知の部分が大きすぎて…

バランスがとれていなくて、不自然。


「やっぱさぁ……僕はやっぱ自然美が大事だと思うんだよね」


少女の絵を通して三津が見ているのは、少女自身。


「でもまぁ難しいよね」

「……とても……」


かわいいなぁ。
あ、これ僕が思っちゃ幼女趣味か。

 

「諦めちゃ駄目だよ?」

「………努力は、しますよ」


少女は再びキャンパスに向かった。
すこし軽めの明度の高い色を選びながら。

 

 

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析